鳴海「無地の硝子のおはじき」 06.06.19
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『今日俺、誕生日なんだ。君から、プレゼントが欲しい』
『は?』
美咲は、何を言われたか理解出来ず、目の前の男をきょとんと見上げる。
見たことくらいはある。
この学校では、知らない人間がいない程人気がある生徒。
勉強が出来て、スポーツも万能で、顔もスタイルも良く女の子との噂も絶えなかった。
“学校一の美人と付き合ってる”とか“年下の可愛い子を連れて街を歩いていた”だとか。 とにかく、良くも悪くも噂の彼。
美咲は、ずれた赤いフレームの眼鏡を指で直し、良く良く見つめた。
『あの・・・私、あなたのこと良く知りませんし』
『じゃあ、自己紹介します。俺の名前は岡本 大介。今三年で陸上部に入ってて、趣味は音楽鑑賞,映画鑑賞,格闘技を見ること、それから・・・』
『あの、別にそんなことが聞きたいわけじゃ・・』
『そうなの?』
『私からプレゼントが欲しいって、・・一体どういう?』
『君のことが、好きなんです』
『・・・・・・・』
大介が言った言葉を理解するのに、たっぷりと時間が掛かった。
美咲は、大介とは正反対の性格だった。
人付き合いが苦手で、いつも一人だった。
両親は美咲が幼い頃に離婚していて、看護師をしている母と二人暮らし。
母親に余計な負担を掛けないように、家事や勉強は人一倍頑張った。
昔から目が悪く、度の強い眼鏡を掛けていて、いつも俯き加減で歩いているため、近寄り難い雰囲気があるのか高校に入っても友だちはいなかった。
大介のことも、女生徒が“キャーキャー”言っているので知ってはいたが、喋ったことは勿論、学年も違うし挨拶さえしたことがなかった。
『失礼ですが、私はあなたのこと余り存じ上げてませんし、からかうんだったらもっと別の・・・』
『本気だよ』
『馬鹿にしないで下さい!』
強い口調で返した。
美咲はイライラしていた。
帰り道、突然声を掛けられて、良く知らない学校一の人気者からプレゼントをねだられ、挙句の果てには告白までされて。
美咲には、彼氏どころか友だちもいない。
自分に自信もなく、生きていることさえ無駄に感じる時もあった。
そんな自分に声を掛けて来るなんて、頭がどうかしているとしか思えなかった。
大介の両手には、女の子たちからもらった手紙やプレゼントで溢れているというのに、これ以上まだ何を望んでいるというのか・・・。
『馬鹿になんかしてない。本気で、君のことが好きなんだ。君は、覚えてないの?』
『何を・・・』
『俺と、ぶつかった時のこと』
『覚えてません』
『一ヶ月くらい前のことだよ。強くぶつかって、君の眼鏡が飛んだんだ』
『・・・あぁ』
そんなこともあったかも。と、美咲は思い返す。
学校の階段を上っていた時だった。
上から友だちと勢い良く下って来た大介に気付かずに、ハっとした時には手遅れで、もうぶつかっていた。
手摺りから手が離れ、低い位置から美咲は落ちた。
幸い尻を強く打っただけで済んだが、持っていた参考書や辞典、そして眼鏡が宙を舞った。
『いったぁ・・・』
『ごめんっ。大丈夫だった?』
『・・すみません』
『いや、こちらこそ、気付かなくて・・・』
尻を擦りながら散らばった本など、近くにあるものから拾おうとしたが、眼鏡がなくて良く見えない。
『コンタクトにしたら?』
一緒に辞典などを拾ってくれていた大介は、美咲の顔を見て言った。
集めた本の上に眼鏡を乗せて、ハイ、と差し出す。
『すっごい、魅力的な顔してると思うんだけど』
目が悪い美咲でもハッキリと解る程大介は顔を近付けて見つめていた。
美咲は恥ずかしさで居た堪れなく、視線をキョロキョロと落ち着かずに顔を背けた。
『オーイ大介、何やってんだよ。行くぞ』
友だちに呼ばれ、大介はその場を去った。
『あの時から、凄い気になってね。君のこと』
『気になってって・・名前も知らない相手に、良くそんなこと言えますね』
『美咲ちゃんでしょ?知ってるよ、俺。美咲ちゃんのクラスに行って、色々と聞かせてもらったし』
『知ってるはずないじゃない。私のクラスに来たって、私誰とも話しないもの』
『そうかな?名前も聞いたし、吹奏楽部に入ってることも知ってるし、眼鏡取るとものすごーく可愛いのも知ってるし』
『最後のは、あなただけでしょ』
『そう?』
『大体、私なんかにプレゼントねだらなくたって、その両手に持ってるもので充分なはずでしょ』
『コレ?』
『えぇ』
『沢山プレゼントもらったって、沢山“おめでとう”を言われたって、別に嬉しいとは思わない』
『そんな贅沢言ったら罰が当たりますよ。誰も祝ってくれない人の身にもなって下さい』『それ、君のこと?』
『・・・・・・・』
『美咲ちゃんは9月の28日だったね?今年は、俺が祝う。それじゃダメ?』
『・・・・・・・』
『俺のことは、これからだんだん知っていってもらえれば良いんだ。君のことが好きで、君に告白してOKをもらうことを、今年の自分の誕生日プレゼントにしたいと思ったんだ・・・』
大介は、ちらっとゴミ置き場を見た。
『ちょっと待っててくれる?』
大介はゴミ置き場に歩み寄り、両手に持ったプレゼントの山をごっそり捨てた。
『何してるのっ?』
『いらないんだ、俺。君以外』
『信じらんない。私の何処が・・・』
スっと大介は手を伸ばした。
眼鏡に手を掛け、ゆっくりと外す。
『ほら、超美人。俺と、付き合ってくれない?』
『だから、そんな急に言われても・・・』
『じゃあ、俺の友だちになって』
『・・・え』
『友だち。ダメ?』
『友だち・・・』
『美咲ちゃんの、友だちになりたい』
『“どうかしてる”って、言われない?友だちなんて、私言われたことないですし』
『君のこと、君の口からもっと色々知りたい。時々遊びに行くだけでも良いしさ』
『私、図書館とか美術館しか余り行ったことないんです』
『良いじゃん。喜んで付き合うよ。友だちに、なってくれない?』
美咲は、初めての“友だち”という響きにドキドキした。
時間を掛けて、考える。
『友だち、なら・・・』
『やったぁ!』
美咲は、何だか心がじわじわと暖まっていくのを感じた。
学校一の人気者が、どうして学校一孤独で醜い自分のことが好きなのかは、全く解らないけれど。
でも取り敢えず・・・。
『眼鏡、返して下さい』
『え?』
『あなたの顔、良く見てみたいんです』
まだ始まったばかりの二人。
未来は、これから・・・。
Fin.